試作開発の実績紹介

 当事務所の加藤が開発に関わったヤザキメディカル様のエアーシートが発売されました。
ヤザキメディカル様での公式ページはこちらです。

 技術者としてのプロフィール

 試作メーカーでは自動車量産部品用ジグ、モーターショーや動作確認のための試作品、一部の少量生産の車種の部品などと、特に皇室専用車の内装部品の試作者、および実車用部品、事務機器、航空、家電、医療など様々なジャンル、工法の仕事をしてまいりました。

経験してきた工法      真空注型、真空成形、低圧射出、削り出し、手作業、ブロー成型等
経験してきた材料    鉄、アルミ、銅、グラファイト、PP、ABS、ウレタン、発泡ウレタン、光硬化樹脂他
経験してきた機械    三次元測定機、MC、光造型機等
経験してきたソフト CATIA V5/V6,SolidWorks,SurfCAM,WorkNC, Rhinoceros,Fusion360等
経験してきた職務  打ち合わせ、設計、CAD/CAM、測定、MC等

 試作開発アドバイザーと名乗っているものの、今までは試作メーカーなどでの経験は秘密保持の問題もあり、なかなか実績として紹介できるものではありません。
しかしながら、独立前の職場としてお世話になったヤザキ工業様(医療部門であるヤザキメディカル)にて、自社開発製品として関わることができました。
こちらについて、

事例1 ヤザキ工業様 歯周ポケット測定器

 令和元年度の静岡県の経営革新計画の承認を受けた「周病検査時の痛み軽減、出血を抑える歯肉溝 深さ測定器の開発、販売」および静岡県産業振興財団の助成を受けた「歯周病重篤化防止のための歯肉溝深さ無痛測定装置の開発」におけるハードウエア、ソフトウエアの開発です。

 この案件で提示されたのは、おもに以下の要件です。

①歯周ポケット測定器として、歯周ポケットに入ったプローブ(測定部分)の量(移動量)を測定する。
②ペン型で、小型、細身であること。(デザイン性と、使用者に女性も多いことを想定することから)
③電源は乾電池等を用いること。(使い勝手と安全性のため)
④無線機器であること。(使い勝手と安全性のため)
⑤測定データをPC等に転送できること。(省力化、効率化のため)
⑥分解修理可能な構造(部品交換等を可能とするため)
⑦電池交換頻度が少ないこと(使い勝手)
⑧防水性(唾液、血液等による故障、劣化を防ぐ)
⑨単体での自己診断、測定値の表示機能(単体で医療機器として成立するため)
⑩道具なしで電池交換可能(使い勝手)
⑪外観性能(見た目と同時に滑り止め等の機能が必要)
⑫製品寿命5年以上(使用するスイッチ部品の耐久性に関わる)

 これらに対し、動作機構、デザイナーのデザインに合わせた外装設計、ソフトウエア、電子基板の仕様打ち合わせ等をしました。
 事情により中断となってしまいましたが、試作開発全般にわたり、実務部分をほぼ単独で担当させていただいたのはとてもよい経験でした。設計者としてはすべての要件に対して一定の結論を出すことができました。
 設計としては80パーセントほどのところで中断されてしまい、完成に至らなかったのは残念です。しかし、これだけの機能をペン型とするのはとても難易度が高かったのは間違いありません。特に基板や電子部品を依頼した業者さんとは幾度も相談し、基板のイレギュラーな分割などいろいろ相談に乗っていただきました。
 静岡県産業振興財団でのコンペでは、動作が完全ではないものの電子基板や機構を組み込んだものを提出でき、無事に採択されました。
 なお、この案件で最終的に残ってしまった問題が「組み立て難易度が高いこと」。あまりに部品が小さいにも関わらず、ほぼすべての機構部品が分解可能な構造であるため、使用しているネジがM0.8とかM1.0などというものがあり、肉眼で組み立てることかなり難しい状態だったのを記憶しています。微細作業用の特殊なルーペがないと、ネジの頭とドライバーを合わせることすら難しかったです。
 発売までこぎ着けていれば、歯周ポケット測定の大幅な省力化、効率化が可能だったと思えるだけに残念です。でも、勉強になりました。ありがとうございました!


事例2 ヤザキメディカル様 エアーシート(乳幼児用ムレ対策シート)

  赤ちゃんは体温が高いこともあり、抱っこしているとあっという間にムレを感じます。アセモがひどくなることもよく聞きますよね。赤ちゃんはムレが嫌いなため、クルマのチャイルドシートやベビーシートを嫌って泣くことあります。そんな赤ちゃんのためのアイテムです。

 風を赤ちゃんの背中に吹きつけるのではなく、風を通して湿気を運ぶという発想です。
衣服などでもわかりますが、風が直接当たらなくても、風がわずかにでも通っていればムレはないですよね。
風をあてるのではなく、湿気を貯めずに移動させる。そんな優しいコンセプトの製品です。

 エアーシートは赤ちゃんの夏場の大敵、ムレを予防するためのものです。まずは外観をどうぞ。

黒一色なのがちょっと見にくいかもしれません。ごめんなさい。

エアーシートで提示された要件は最終的に以下の通りです。

①空気が通ること
②USB電源駆動
③電池の持ちがいいこと
④リクライニングに対応すること
⑤丈夫で安全性が高いこと。

 途中で一時的に業務を離れておりましたが、最終的な設計としての関わりは七割程度と言えるでしょうか。おもに以下の内容で担当しました。

①リクライニングやベビーカーの折りたたみへの機構としての対応
②量産での材質や工法
③ファンの基本的な仕様
④肉厚の設定、リブ配置
⑤風の通り道の設定
⑥金型業者、量産メーカー向けの最終形状

 それでは、特に苦労した機構部分についての画像をどうぞ。まずは風の通り道です。風の通り道は合計6本で、水平から画像程度の角度まで、無段階で対応できます。赤ちゃんのお尻の形に対応できるよう、座面は三次元的な形状になっています。


 次は、シートの最大角度での状態を横からみたところです。
なんとなくわかると思いますが、通常はこれ以上曲がりません。無理に曲げようとしたら壊れてしまいます。
しかし、エアーシートはベビーカーの折りたたみ機構に対応するため、さらに大きく曲げることができます。
特殊なヒンジ(可動軸)の設定により、およそ135度くらいまで曲げることができるのです!

 これが、以下の角度まで大きく曲がります。けっこうすごいことなんですよ!
 残念ながら全てのベビーカーに対応できるわけではありませんが、かなりのベビーカーでは搭載したまま折りたたみが可能です。
 当初から設計としてかなり苦労した部分ですが、最終的的な量産メーカーとの打ち合わせで細かい変更が入り、いろいろ調整することになりました。
 なにより、特殊すぎて、商社さんも、二か所の量産メーカーさんもちゃんと動作することを信じてくれませんでした(涙)。
 特に、折りたたんだベビーカーを展開する際には自重により本来の軸位置に復帰するのですが、そこを信じてくれる人が誰もいなかったという・・・。
 最終的に3Dプリンタでの試作をしてもらい、ちゃんと動作することを確認でき、先に進めるようになりました。

 背もたれ部分はブロー工法による一体成形。組み立て工数を減らすための工夫です。ファンの入っている座面部分は上下に分割し、インジェクション成形で作られています。
 正式な強度試験ではないですが、社長の奥さんが乗っても大丈夫だったそうですので、体重40kg程度でも大丈夫なようです。

強度については、自動車の内外装の部品の試作の経験が生きています。

 このエアーシートと同様のコンセプトの製品は何種類かありますが、耐久性や強度については特に自信があります。
 また、カバー部分を取り外して洗えたり、もう一枚購入できたりといった清潔さへの対応もポイントです。
 プラスチック部分をアルコールで拭くのはオススメできません。少々であれば問題ありませんが、何度もアルコールで拭いていると劣化の可能性もあります。

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